彼女が転んだシリーズ 〜メアリ編〜



クローバーの塔の主、ナイトメア・ゴットシャルクの病弱ぶりを知らぬ者などいない。

それはもう見事なもので、物心ついてすぐの子ども達でさえナイトメアがしょっちゅう吐血を繰り返すわ、病院嫌いで体力無いわ、脱走しようとして力尽きるわという数々の病弱伝説を知っているほどだ。

だから。





「・・・・別に私一人運べないぐらい誰も驚かないわよ?」

半ば呆れ、半ば気遣うようなアリスの言葉に毛布にくるまったナイトメアはますます丸くなってしまった。

その完全にふてくされ体勢に入ってしまったナイトメアの背中にアリスはため息を一つついた。

(おかしい。心配されるのは本来は私のはずなんだけど。)

アリスがそう思って目をやった先には細い足首に巻かれた白い包帯があった。

それはほんの1時間帯前の事。

いつものようにクローバーの塔で雑用をこなしていたアリスは、うっかり塔の階段から足を踏み外した。

多めの資料を持っていたせいで足下が見えなかったせいもあったが、幸い段数は多くなく足首の軽い捻挫で済んだのだが、問題はその時まっ先に駆けつけたのがナイトメアだった事だ。

片足を捻挫してしまったアリスは咄嗟に立ち上がる事が出来ず、部下も連れずに一人で駆けつけてきたナイトメアが抱き上げようとして・・・・見事に潰れた。

(あれは・・・・うん、ちょっとおかしかった。)

一応ナイトメアの名誉のために言っておくと持ち上がりはした。

が、持ち上げた直後、吐血発作が襲ったらしくさっと顔色を青くしたかと思ったその直後、アリスはナイトメアの上に着地していたのだ。

「なんていうか、グシャって感じだったわよね。」

ぴくっ。

その時の事を思いだしてぽろっとアリスが呟いた言葉に、ナイトメアの肩が揺れた。

「・・・・・」

それを無言で見つめること数秒。

それでも変わる事無い状況にアリスはため息をついた。

そんなわけで捻挫をした上、ナイトメアの上に着地してしまったアリスを後から駆けつけたグレイがあっさり抱き上げてしまったのもまずかったのだろう。

アリスの捻挫の手当が終わる頃には拗ねに拗ねた立派な芋虫が一匹できあがっていたというわけだ。

「・・・・でもちょっと意外ね。」

「・・・・何が」

しばらくぶりに反応があった。

相変わらず拗ねた声ではあったけれど。

「だってナイトメアがあんな事で拗ねるなんて思わなかったわ。」

「わ、私だって男だ!君一人運ぶことも出来ずに潰れたとあっては落ち込みもする。」

ふんっと毛布にくるまってしまうナイトメアに、アリスはだからそれが意外なのよ、と心の中で言い返してやる。

「なんでだ?」

「あなたってあんまりそういう一般的な事気にしなさそうだから。」

「人を常識が無いみたいに言わないでくれ。」

いや、ないでしょ。

所構わず人の心の声を聞いてくる夢魔に切り返してやれば、少し傷ついたのか肩越しに恨みがましい視線を向けられてしまった。

「ひどい・・・・君は酷い女だな。」

「ひどい・・・・かしら。」

「ひどいだろ!傷心の私に優しくしてくれない・・・・。」

ブツブツと本格的に拗ねだしたナイトメアに、アリスはすでに何度目になるか数えるのも億劫になったため息をはき出した。

「あのね」

口に出そうとして ―― やめた。

どうせ常日頃から読まないで欲しい思考まで読んでしまう不作法な夢魔なのだから、勝手に読めばいいのだ。

そうと決め込んだアリスは涼しい顔でそっぽをむいた。

(そういえば、ナイトメアって人の思考を読み取る時、どんな風に聞こえるのかしら。)

文字で表示されるとは考えにくいから映像とか色みたいにも見えるのかも知れない。

(それなら)

―― 思いっきりこの心の中の色が伝わればいい。

そう思いながらながらアリスはそっと目を伏せて微笑んだ。





―― 本当はまっ先にナイトメアが飛んできてくれて嬉しかった、なんて。





「っっっ!?」

自分でも呆れてしまうほど甘い思考に、ナイトメアが顔を真っ赤にして毛布を跳ね上げた ――











                                           〜 END 〜











(アリスが転んだら・・・・ナイトメアは抱き上げられないよね・汗)